①耳がかゆい
「耳がかゆい」とき、犬も猫も同じような症状、行動があります。「後ろ足で耳をかく」「耳を床に擦り付ける」などの症状が見られ、飼い主さんはその様子を見て「かゆい」ことに気がつきます。もしくは「耳が匂う」ことで気づくこともあります。
考えられる耳の病気
- 外耳炎
- 耳介炎
- 疥癬(ショウセンコウヒゼンダニの感染)
- 耳ダニ(ミミヒゼンダニの感染)
- 耳血腫
耳たぶ(耳介)や耳の中(外耳道)がどんな状態になっているか?
- 外耳道が赤く腫れ、茶色の耳垢、黄色の耳垢がたくさんあり、臭いがする→「外耳炎」が起こっています。耳介まで炎症が広がり、耳全体が赤く腫れている状態は重度の外耳炎です。
- 外耳道に問題はないが、耳たぶ(耳介)だけが赤く腫れて匂う→「耳介炎」が起こっています。
- 耳たぶ(耳介)にカサブタ(痂皮)がたくさんあって痒みがひどい→疥癬が寄生している可能性があります。
⇦疥癬が寄生している猫ちゃん。(「猫の病気」から抜粋)
- 外耳道に黒い耳垢が大量にあり、痒みがひどい→耳ダニがいる可能性があります。
- 耳たぶ(耳介)が腫れている→耳介に血が溜まっている状態(耳血腫)です。
⇦耳たぶに血が溜まっている状態(「犬の病気」から抜粋)
原因は?〜外耳炎の原因はいろいろ〜
- アレルギー(アトピーや食物アレルギー)体に皮膚病がなくても、耳だけに症状が出る場合があります。外耳炎の原因の中ではこれが最も多いでしょう。
- 耳の形が垂れ耳でムレやすい。外耳炎の悪化要因の一つで、ムレると細菌が繁殖しやすいです。
- お手入れのやり過ぎ。間違った方法で耳をケアしていると炎症が起きることがあります。
- 耳毛を抜いている。犬種によってはトリミングで耳毛を抜くことがありますが、それが原因で外耳炎になることがあります。ただし。全員がそうなるわけではないです。耳毛を抜いても全く問題ない子もいます。
- シャンプーの洗い残し。
- 寄生虫の感染症。外で暮らしている猫ちゃんや、汚染されている環境にいる子犬によくみられます。
治療
- 外耳炎が起きている場合は、まず耳垢を綺麗に除去して、薬をきちんと使うこと。これが基本です。そして、外耳道のケアで飼い主さんができる範囲は外から見えるところまでです。トリマーさんができる範囲も見えるところまでです。見えないところは医療行為になるので獣医師による処置(耳洗浄)が必要になります。
- 寄生虫が感染している場合は、駆虫薬を使って治療します。
- 耳血腫が起きている場合。治療方法はいろいろあります。この病気はもともと外耳炎が起こっていることも要因ですが、根本的な原因は自己免疫疾患であると言われています。つまり、その子の免疫システムに問題があるために起こるので、治療方法としては免疫抑制剤(ステロイド)を使ったり、免疫調整を行うようなインターフェロン、オゾン療法も効果的です。数年前までは外科的に治療することが多かった病気ですが、昨今は内科的に治療できるようになりました。ただし。いずれの方法でも、完治した後の耳の変形は起こり得ます。
- 難治性外耳炎。その名の通りで、治りにくい外耳炎、慢性的な外耳炎のことです。外耳炎の時に一般的によく使う薬に効果がなく、細菌培養や感受性試験が必要で、かつ薬の選択が難しくなるような状態です。この場合、抗生剤を使わない治療が効果的だったりします。オゾン療法がその一つです。
②皮膚がかゆい
「皮膚がかゆい」とき、犬や猫は痒い場所を舐めたり、噛んだり、床にこすりつけたりします。日々のグルーミングでも同じような行動をしますが、「痒い」時は異常な頻度で繰り返されます。
犬の皮膚病と猫の皮膚病は病気の種類は似ているところもありますが、同じ病気でも診断方法や治療方法は異なることがあります。
犬も猫も大事なことは最初の問診(まず色々お聞きします)
- その皮膚病はいつから始まって、痒みはどれくらいあるのか?季節に左右されるのか?
- 飼育環境(散歩の有無、同居動物の有無、猫の場合は外出の有無、など)
- 食事(主食の種類、メーカー名、おやつの有無、種類、食事の回数)
- シャンプーの間隔、種類
- 今までの治療(抗生剤、ステロイドなどの使用歴、薬用シャンプーの使用歴、食事療法など)
- 過去のアレルギー検査結果
皮膚の症状がどこに、どのようにあるか(観察)
- 脱毛(毛が抜けている範囲、抜け方)
- 紅斑(赤みの範囲)
- 丘疹(皮膚の盛上がり)
- 結節(皮膚のできもの)
- フケ、痂皮(過剰なフケ、かさぶた)
- 表皮小環(円形の脱毛にフケが縁取るようなもの)
- 脂漏(皮膚の脂っぽさ)
- 石灰化
- 乾燥
- 苔癬化(皮膚が厚く黒くなること)
- 肥厚(皮膚が厚くなること)
- 左右の対称性
そこに感染や異常な細胞はあるのか?(ここから検査が始まります)
- 細菌感染(膿皮症)
- マラセチア感染
- 真菌(目視での判断は困難)
- 寄生虫(毛包虫、疥癬、ノミ)
- ウイルス感染(猫)(目視での判断は困難)
- 腫瘍細胞
- 好酸球
⇨抜毛検査、皮膚テープ検査(セロテープで皮膚の表面を取ります)、掻爬
類症鑑別
- アトピー性皮膚炎
- 食物アレルギー
- ノミアレルギー
- 寄生虫症(毛包虫症、疥癬)
- 真菌症
- 皮膚糸状菌症
- 甲状腺機能低下症
- 副腎皮質機能亢進症
⇨上記の病気はよくあるものです。皮膚の病気はこれ以外にもたくさんあります。
アトピー性皮膚炎と食物アレルギーの治療(統合医療を目指して)
アトピー性皮膚炎と食物アレルギーの皮膚の症状はとても似ていて、見た目だけで判断することは難しいです。また、どちらか一方だけということは少なく、多くは両方を持っているため、治療方法も単純ではありません。体の内側からの治療と外側からの治療が不可欠です。まず共通して起こることは「二次感染」と呼ばれる状態で、細菌やマラセチアの感染が必ずと言っていいほど起こります。
そのため、まず最初に治療することは①「感染のコントロール」です。
皮膚の病変にどんな細菌がいるのか?見た目ではわかりませんが一般的な膿皮症の原因菌(スタフィロコッカス)をまずはターゲットにして抗生物質を処方します。ただし、同じ菌でも強い菌がいる場合は一般的な抗生剤が効かないことがあるため、本当は細菌培養をして感受性試験をすることがおすすめです。(結果は数日後になるのでやはり最初から抗生剤は出しますが)過去にいろんな抗生剤を使用している場合は耐性菌(抗生剤が効きにくい菌)がいることがあります。
感染のコントロールができるのは内服薬だけではありません。ヒビテン消毒液で皮膚の消毒をすることもまた効果的です。オゾン水で皮膚の消毒・保湿をすることもお勧めです。
薬用シャンプーで皮膚を洗浄・消毒することも大事な「外側からの治療」の一つです。薬用シャンプーを語ると1ページは必要になるのでここでは割愛します。
②「炎症を抑える、痒みを止めるⅠ」最近では第一選択薬ではないのですが、ステロイドがあります。痒みや炎症を素早く取り去ってくれます。正しく使えば副作用の心配なく短期間なら効果的に使うことができます。ステロイドは悪いイメージが先行していますが大事なのは「使い方」であって、決して悪者ではないのです。ただし。中高齢の犬や猫の場合は、ステロイドの使い方は気をつけなければいけません。使用する前に必ず血液検査をします。ステロイドの影響で糖尿病を発症することがありますし、猫の場合は心臓にうっ血を起こすこともわかってきたためです。内服薬と外用薬がありますが、いずれも大事なのは「使い方」です。
ただし。長期で使うことはおすすめしません。私は「ステロイドを使わない皮膚病のコントロール」を目指していますし、そのための「統合医療」「オーダーメイド医療」を紹介しています。
③「炎症を抑える、痒みを止めるⅡ」上記の通りで、ステロイドは常に悪者ではありませんが、ステロイド以外の痒み止めもあります。ステロイドよりも高価ですが、副作用をそれほど心配することなく長期で使用可能(今のところ)なのが、分子標的薬の一種でもある「オクラシチニブ」というお薬。
また、同じ分類にはなりますが、注射薬「サイトポイント」も近年発売されました。ですが、両者とも、適応は「アトピー性皮膚炎」に対して、です。食べ物アレルギーが強かったり、感染のコントロールができていないと、痒み止めの効能はなかなか発揮してくれません。両者とも大きな副作用は心配しなくても良いですが、高価なので、効果があるのかないのかは判定しながら使った方が良いです。
感染のコントロールもできたし、痒みも抑えることができた・・・でも。薬を止めると痒みが再発する・・・どうしたらいい?
一過性の膿皮症であれば上記の治療ですっと良くなって短期間で治療は終わるでしょう。しかし、やはり「何か」がアレルギーになっている場合、治療は長期戦に移っていきます。上記以外の治療を加えていく必要があります。アレルギーの治療の場合、
- 完治が可能なタイプ
- 完治は難しく、痒みの許容範囲をコントロールしていくタイプ
に分かれますが、後者が圧倒的に多いでしょう。もちろん前者を目指して治療しますが、どちらも統合医療を必要とします。以下はそれらの説明です。
③アレルギー対応フード 食べ物を療法食に変えます。低分子化されたフードはアレルギーになりにくいため、食物アレルギーの可能性が高い場合はフードを変えることで皮膚が良くなります。また、新規タンパク(今で食べたことがないタンパク質)を使ったフードも効果があることがあります。その判定に要する時間は大体2〜3ヶ月です。(アレルギー検査を元にフードを選んだ場合はより一層効果は期待できるでしょう)*除去食試験、という検査方法もあります。
当院で使用しているアレルギー対応フード(犬)
- ピュアプロテイン
- アミノペプチドフォーミュラ https://www.royalcanin.co.jp/vets/product_dogs/Anallergenic+/
- アミノプロテクトケア(エンドウ豆)
- 鹿肉、馬肉、うさぎ肉
当院で使用しているアレルギー対応フード(猫)
- アミノペプチドフォーミュラ
- スキンコート
- 鹿肉、馬肉、うさぎ肉
当院で使用しているアレルギー対応おやつ(犬)
- 北の極み 鹿肉 http://www.kitanokiwami.com/
- わんふ〜 ウサギ肉
- 低アレルゲンやわらかトリーツ(チーズ風味)
④免疫抑制剤 ステロイドの代わりに痒みを抑えてくれるお薬です。副作用がないわけではないですが、ステロイドよりは長期でのコントロールはしやすくなります。
⑤ステロイドの外用薬(スプレー)副作用を心配することなく使える優れものです。最近は、免疫抑制剤の前に外用のステロイド剤を勧めることが多いです。広範囲の病変の場合は効果が不安定になる可能性はありますが、免疫抑制剤よりもまず先にこちらをトライする方が多いです。
⑥腸内細菌(腸内フローラ)を整える アトピー性皮膚炎も食物アレルギーも体の中で起こっているのは「免疫反応」です。アトピー性皮膚炎に関与するのはアレルギーⅠ型(即時型)、食物アレルギーに関与するのはアレルギーⅠ型とⅣ型(遅延型)で、Ⅰ型はIgE抗体が原因でありⅣ型はリンパ球が反応していることが原因で起こります。つまり、それらが過剰な反応をしなければ免疫反応は起こらない=皮膚の痒みや炎症は起こらない、ということです。アトピーや食物アレルギーの体質があるとき、この免疫反応はとっても過敏で常に免疫細胞がスタンバイしているような状態になっています。腸内細菌はこの免疫反応に関与しているので、腸内細菌(腸内フローラ)を整えれば、過剰な免疫反応も抑えられる、ということです。アレルギー体質の子の腸内フローラは普通の子とはやはり違うようですが、これはまだ研究段階です。以下は当院で扱っている免疫療法です。
- 乳酸菌マイクロエキス http://www.wide-p.jp/
- イムノジェニックス(乳酸菌マイクロ発酵エキス) (ペティエンス)
- ペットIgG
- オゾン療法
⑦減感作療法(犬) アレルギーとなっている抗原を体に摂取させてIgE抗体を減らす治療です。アレルギーⅠ型反応が起きているタイプが対象(つまりアトピー性皮膚炎)です。方法は注射と舌下(輸入します)がありますが、まずはアレルギー源を特定することから始めます。それによって方法を選ぶことが可能です。治療費用がやや高額になることと、継続性が重要になるのでこの治療方法にトライする方はまだ多くありません。
⑧角質保護剤 いわゆる保湿です。これはとっても重要なことです。アトピー性皮膚炎や食物アレルギーがある子の角質は脆弱で外からの刺激に弱いです。角質は皮膚を守るためのバリアー機能があります。それが弱いと、外気の乾燥、シャンプーの刺激、バリカンの刺激、耳毛抜き、などで角質・毛根が壊され、普通ならば侵入しないような細菌や真菌などが容易に侵入してくるようになります。「保湿」はそれを防ぐ働きがあります。角質の細胞間にある保湿成分(セラミドなど)を補充すると、角質層が壊れにくくなります。保湿方法は多種多様で皮膚の外からセラミドを補充する方法や、サプリメントで体の内側から補充する方法とあります。
色々あるけどどれまでやればいいの?⇨決まりはありません。飼い主さんのご事情と動物の状態に合わせて選択していきます。
統合治療でコントロールが良好な症例
- 年齢:7歳 トイプードル
- 甲状腺機能低下症、僧帽弁閉鎖不全症などあり
- 数年前より他院で皮膚病治療(アポキル服用していたが効果なし)
- 全身の脂漏(脂っぽいこと)と痒み
- アレルギー検査ではアトピー性皮膚炎と複数の食物アレルギーを疑う
治療前
当院での治療内容
- 感染のコントロール(抗生剤、抗真菌薬)⇨現在は減薬開始
- アポキル中止(効果がないため)
- 薬浴4日に1回通院(薬浴時間:2時間)⇨現在は10日に1回
- ステロイドの内服薬は使用しない
- 自宅での消毒、コルタバンス
- フード変更
- アンチノール(角質保護剤:カプセル)
- オゾン療法(注腸法、オゾン水洗浄(薬浴の仕上げ))
3ヶ月の治療後(現在)
痒みはほぼ消失
皮膚病初診の場合は上記の内容を検査、説明するため少なくとも1時間はかかります。ご予約の上、ご来院ください。セカンドオピニオンの場合は過去の検査データ、投薬データをお持ちください。